4.ブラジルサッカーの凄さ

今から約45年前の日本サッカー界で言われていた定説がある。ひとつめは【外国のサッカーは外国人だからできる】という考え方だ。だから日本人には外国人のようなサッカーをすることはとても無理だという説があった。それに対する検証をしてみよう。

前回登場したセルジオ越後氏は、ご両親共々生粋の日本人であるが、ブラジルへ移住しサンパウロで生まれ育った、ブラジル生まれブラジル育ちの日本人である。あの世界を席巻した越後氏の強烈極まりないスキルフルなブラジル・サッカーは、「ブラジルという他民族国家の国民だから出来るのであって、日本人には絶対に無理だ」という説からすると越後氏も日本人に毛の生えた程度であるはず。しかしながら、越後氏は体格的には日本人と全く同じでありながらそのサッカースキルは凄まじく、とにかくそのピッチ内での一挙手一投足が超一流のブラジル選手のそれであった!いやそれ以上か??今の越後氏しか知らない方々には想像も出来ないだろうが、とにかく来日時の彼は全く別次元の存在だった。惜しむらくは当時の映像がほとんど残っていないことであるが、とにかく口ではその物凄さを形容が出来ない。日本人でも(もちろん育った環境は重要であるが)ブラジル人以上のプレーを身につけるのは可能なのである。

そして、当時の定説のふたつめは、【ブラジル人はサンバのリズムでサッカーをするからあんな事ができる】という説。確かに彼等はまるで足の関節が我々とは違っているかの様な動きをする、まるで激しいサンバの踊りの如く。しかしこの説は自分が直接ブラジルに行き彼等を間近で見てからハッキリと言い切れるが絶対的に”ノー”である。ブラジルの名選手の全てがサンバを踊れる訳じゃない。しかし踊れる、踊れないは関係なく彼等はサンバのリズムが身体の中に無意識の中に流れている。

元ブラジル代表でアントラーズでも活躍した超一流のイケメン選手、レオナルド。食事中にポツリと彼が言ったのは「全てとは言えないが、一般的に自分達の様な若い世代は母国ブラジルの伝統音楽であるサンバに興味をあまり示さないヤツが多いと思う。日本だって演歌に若い世代があまり関心がないのと同じだよ。だからサンバとサッカーは全く別物と考えても良い。でもひとつ面白い経験をした事があるんだ。もちろん自分が育った国ブラジルでは試合中スタンドでガンガンサンバのリズムがサポーターによって奏でられていて、当然選手のロッカーにもそれは鳴り響いている。そんな環境でサッカーをずっとやっていたんだ。何の意識もせずに。初めてスペインのバレンシアに移籍した時、デビュー戦を前にロッカーで準備をしていたら違和感を感じたんだ。何かが変だ!?ブラジルと同じくらいスタンドの喧騒や熱気をロッカーでも充分感じる。しかし何かが違う!?そうだ!あのサンバのリズムがない!なんか調子が狂うな…。別にプレーに支障がある訳ではなかったがおそらくメンタル面に於いて自分達ブラジル人にはあのリズムはDNAにインプットされてるんだ」と語った。サンバは踊れるわけではなく、好んで聞くわけでもない。でも彼らの体にはたしかにサンバのリズムが染み込んでいる、そうさせる環境がブラジルにはあるのだろう。

そう、それはブラジル生まれブラジル育ちの越後氏にも。当然、自分たちと同じ背丈の日本人セルジオ越後氏の繰り広げる本場ブラジルサッカーに魅せられて、再度ブラジルサッカーの奥深さを垣間見てしまった高校生の自分は、眠っていたブラジル熱が一気に急上昇、それから越後氏の謎を徹底解剖する目的で追っかけ生活がスタートするのである。